2014年6月28日土曜日

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『 魍魎の匣 』   京極夏彦 著

暗い性格で友達もいなかった楠本頼子は、クラス一の秀才で美少女の柚木加菜子に突然「私たちは互いが互いの生まれ変わりなんだ」と声をかけられる。不思議な事ばかり言い、難しい文芸雑誌を読む加菜子に戸惑う頼子だが、互いに孤独だった2人は親交を深め、2人で最終電車に乗って湖を見に行こうと約束する。しかし加菜子は中央線武蔵小金井駅のホームから何者かに突き落とされ、列車に轢かれてしまう。
たまたま列車に乗り合わせていた刑事・木場修太郎は頼子と共に加菜子が運ばれた病院へ向かうが、そこで加菜子の姉ちょ名乗る柚木陽子と出会うことになる。陽子の意志で、加菜子は謎の研究所に運ばれ、集中治療を受ける。
関口巽は稀代の新人小説家・久保竣公と出会う。そして雑誌記者・鳥口守彦と稀譚社社員・中禅寺敦子と共に、武蔵野連続美少女バラバラ殺人事件の取材中に道に迷い、とある「匣」のような建物と遭遇する。その建物こそ、加菜子が収容された研究所・美馬坂近代醫學研究所だった。
陽子の下に脅迫状が届き、多数の警官の詰める厳戒態勢の中で謎の失踪を遂げる加菜子。
同じ頃、鳥口は新興宗教「穢れ封じ御筥様」の調査を行っており、関口の紹介で拝み屋京極堂に相談を持ちかける。
バラバラ殺人、加菜子の誘拐、匣に取り憑かれた人々、事件の裏に渦巻く「魍魎」とは何なのか。そして、京極堂の過去の秘密とは。
京極堂シリーズ第二弾。

京極堂シリーズ第二弾「魍魎の匣」は、温かくなったサイダーを飲んだみたいな言いようもない感じと京極夏彦作品特有の中毒性が色濃く表れている作品ですが、京極堂シリーズの中では伴う精神的ダメージが一番ライトでした。
中央線の人身事故、穢れ封じの御筥様、バラバラ殺人、加菜子の誘拐事件。一見関係のない4つの事件がぐるぐると絡み付いて魍魎のようなもやもやとした事件になってしまう。
感想を久保を中心に語ることにしましょう。
久保は子供のころ母親にネグレクトされていて鉄の箱で指を切断した時も、ろくな手当をしてもらえなかったことがトラウマになり、欠けているものがあったりきっちりしていないことが許せなくなってしまいます。そして、自分は欠損だらけで気持ちの悪い人間だとコンプレックスを持って生きていました。しかし、事故で四肢と肺から下を切断した加菜子を四角い箱の延命装置に入れて旅をしている雨宮と出会ってしまったことで、今までどうしようもなく隙間だらけで嫌で仕方なかった人生に、見つけてはいけない活路を見つけてしまうのです。
自分もあの完璧な箱の娘がほしい・・・。匣に魅せられてしまったのです。
久保はとても繊細なので、殺人者ですが私はとてもいとおしくなってしまいました。とてもさみしがりやで意地っ張りで、人に甘えることを知らないかわいそうな人なのです。
久保も加菜子も頼子もこの魍魎の匣に登場する者は、どうすることもできないコンプレックスを抱き続け、とても儚く、危うく、ぎりぎりで均衡を取って生きています。でも、登場人物に限らず、私たち人間というものは儚く、危うく、ぎりぎりで均衡を保ち幸せを追い求める生き物なのです。だからこそ、最後の「幸せになりたいのなら人間を辞めてしまえばいい・・・」がすごく心に響いたのだと思います。
そして、最後は私(読者)も匣に魅せられてしまった一人だと気づくと、なんだか温かくなったサイダーを飲んだ時の何とも言えない厭な感じや、さわやかな夏の空しさみたいなものと同時にもう一回読みたいという中毒性が残る本でした。
ぜひ、思春期を過ぎた夏に読んでほしい本です。




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